西田研究室年次報告
平成12年3月末日
平成10年10月に理学部情報科学科に着任しました。学部学生の配属が10月なのと、まだ以前の大学に博士課程の学生がいたことから、この時期に着任しました。着任と同時に3人の学生が配属され西田研究室がスタートしました。情報科学科は 1975年にできた比較的新しい学科で、着任時では、7教授、1助教授、2講師、5助手からなります(学生定員15名で発足し現在定員35名、修士定員38名)。
平成11年4月からは新領域創成科学研究科 複雑理工学専攻も兼ねることになりました。この研究科は学部生は持たず、近々に柏キャンパスに移る計画になっています。正式には、東京大学大学院 新領域創成科学研究科 基盤科学研究系 複雑理工学専攻 複雑システム大講座 複雑計算科学研究室の教授となりました。複雑理工学専攻は9講座からなります(9教授、7助教授、3助手)。複雑理工学専攻は講座制に近く、我が複雑計算科学研究室に、助教授の森下先生(元IBM)が医科学研究所を経て平成11年9月に着任しました。森下先生はゲノム、データベースの専門で小生とは異なる分野なので共同研究はしないことになっております。
助手もなく、実質は1人で研究室を運営することになり、雑用も多く一人ですべてをやる必要があることから研究時間はかなり制限されている実状です。特に研究室を立ち上げる際、未経験の3人の4年生のみで計算機ネットワークを構築するようだったので時間的ロスがあったと思います。とはいっても、資金面では種々の好条件が重なり、この1年半で期待していた以上(前職場で20年近くかかった装置以上)の研究環境を整備することができました。
1.研究環境の充実
教授室(27m2)、学生の居室の他、51平方メートルの実験(計算機)室と予備の35.5平方メートルの部屋を利用させてもらっています。
CG
の研究室としては、ワークステーションやWindowsNTなどの計算機、カラープリンター、ビデオ録画装置、CGソフト等が必須といえます。幸い、これらの要望を平成11年度末までにほぼ確保することができました。具体的には、計算機関係では、 SGI社のO2(2台)、Indy(2台)、SUN(6台)、WindowsNTは、IBM、Intergraph、DEL、Gateway、自作パソコンなど7台、ノートパソコン数台、高画質カラープリンタのピクトログラフィ、アニメーション録画装置(PVR)、ベータカムビデオレコーダー、スライド作成機、CGソフトの関しては、有名な3次元CGソフトであるMaya(プラグイン含む)、SoftImage 3D, Studio Max, Lightwave3Dを購入できました。結局、高額・高性能なものはありませんが計算機が23台(今は古い機種の5台程度は使用していない)、画像の入出力装置、商用CGソフトを4種も揃えることができました。日立中央研究所からは計算機1台を寄贈して頂き、リアルタイムのボリュームレンダリングハードウエアのVolumePro500を三菱電機の好意で使用させて頂いております。なお、情報科学科の平木、辻井両教授が着任直後にSUNを4台を供与して下さり、森下助教授(当時医科研)がWindowsNTやノートパソコンを提供して下さった。また、実験室が隣室の米澤先生がコピー機・FAXの共同使用を提案して下さり、みなさん(同僚)の温かい支援のおかげで、研究室の立ち上げにはずみをつけて頂いたことに感謝しております。着任年度には校費は100万円程度しかありませんでしたが、学科内での支援(「広域理学」の予算)や、新設の新領域創成研究科の設備充実費に支えられ、さらに平成11年度には科学研究費、IPA(辻井教授らと共同)や未来開拓(合原教授ら)のプロジェクト、慶應大(千代倉教授)との共同プロジェクトの補助金、企業からの奨学寄付金のおかげで設備充実の資金が多いに助かりました(この1年半での総額は2000万円を超える)。
2.研究室メンバー
前述のように、平成10年10月に学部学生3人とで研究室が発足しました。ネットワークの構築の未経験の4年生のみで研究室でしたが、短期間に何とか計算機環境を整備できたので、学生の能力・努力に感謝してる次第です。平成11年10月から、修士1年が 5人、学部生3人となり、博士課程入学予定の台湾からの学生も加わりました。来年度(12年4月)からは、博士1人、修士9人となる予定です。なお、西田研究室は2つの専攻に属すことから、修士学生のうち5人が複雑理工学専攻に、4人が情報科学科専攻に属します。今はまだ過渡期ですが、2,3年経たら安定し学生数は15人以上になると思います。
スタッフに関しては、平成11年12月から週2日ですが秘書(藤代研@お茶の水女子大の学生)が、また、平成12年4月から理学部助手(期限付き)として望月君(近藤研@埼玉大 の博士修了)も加わることになっており組織的にも充実してきています。
3.
学会活動、論文発表この1年半の成果は、論文(国際会議含む)6件、研究会・シンポジウム2件、 全国大会7件(学外の共同研究も含む)、解説論文4件であり、台湾、韓国での学会に招待講演の機会も得ました。過渡期ですので、例年より論文はやや少ないかも知れません。まだ、最高学年は修士1年ですが、東大の学生が登壇したものとしては、 国際会議 1件、研究会2件、全国大会3件 であり、特にNICOGRAPHでの発表(ヘンリ、小磯君)では、優秀論文賞および国際奨励賞を受賞し、学生も成長してくれています。
特に名誉なこととしては、難易度が高いので有名なSIGGRAPH2000に論文が採択(日本からの論文では競争率15倍)されました。筆頭著者の土橋先生(広島市立大)は、正月休みにも本研究室に泊まり込み相当の努力をしましたが、その成果があったと喜んでおります。また、同学会のSketchesのセッションにも2件受理されました。
学生の能力・気質に関し、前職場に比較すると、論文を訳す力などはかなりあります。一方研究室への滞在時間はかなり少ないなど期待ほどではない点もありますが、着実に研究室の体制が整いつつあります。SIGGRAPH99には学生ボランティアとして研究室から2名参加し、貴重な経験となったと思います。
4.プロジェクト
平成11年度は、下記のプロジェクト関連の研究を行なっています。
1)科学研究費 基盤(c)(2): 研究テーマは「インタラクティブコンピュータグラフックスによる自然物の表示システムの開発」であり(2年間)、雲、煙などの自然現象のシミュレーションや可視化の研究を行なっており、中間成果は情報処理学会研究会で発表しました。
2)IPA 独創的事業: プロジェクトのテーマは「画像電子化辞書を用いた言語画像翻訳システムの調査研究」 であり、日本語を入力するとそれを3次元CG画像に翻訳して出力するというシステムの提案およびその予備調査を行ないました。
3)ネットワークを利用したCGテキスト: 慶應大学の千代倉研が参加しているIPAプロジェクト(デジタルユニバーシティ)への協力を行なった。具体的には、全体システムの構築の議論や、CG関係のプログラミングの指導を行いました。
4)CABINの使用プロジェクト: 「高精度自然物シミュレーションによるCG景観の表示システムの研究」に関して、東京大のIML(インテリジェント・モデリング・ラボラトリ)に以前からある5面スクリーンを持つバーチャルリアリティシステムCABINの応用として2年間(11月から)のプロジェクトに参加することになった。具体的には、雲や煙などの自然物を臨場感ある形で表示するもので、まだ開始したばかりです。
5)Webベースの通信教育システム: NTTおよびCG-ARTS協会の依頼で、CGの通信教育をJavaを用いて体験学習する教育システムの開発に参加することになりました。特に、Javaを用いたCGプログラムの開発を学生5人と協力しています(11月から)。
5
. 研究室のWeb環境「ホームページがないのはジョブレス」という言葉が好きで、ホームページには力を入れております。ホームページの維持は、研究時間をかなり制限してしまいますが、CG関連の研究者にはWebは重要と思っております。
研究室のメールサーバは平成11月12日ごろ、Webサーバは11月中旬に立ち上がりました。ホームページの一部を広島大学工学部山下研究室にも今もおかせて頂いております。アクセス数は 東大の研究室へが 35,199回、 広島大でのホームページには 372,02回(1997からの積算)であり。いまでも古いホームページへのアクセスが多い現状である。
1000
件近いCG関連サイトへのリンク集、日本のCG研究室(100近い)の一覧表、WebベースのCG教科書、JavaによるCG例題集、SIGGRAPH関係など広範に充実させています。そのためか西田のホームページ(広島大のものも含む)にリンクしているページが100を超えている状態です。日本におけるCG関連の情報の発進基地になることを目指しています。特に、Webを介してCGの普及・教育に貢献したいと思っています。
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. 出来事研究室が充実するにしたがって、外国からの来客 (中国3、台湾1、米国1)が増えてきました。来客時には学生数人に各自の研究内容を英語で説明することに挑戦してもらっています。特にブラウン大のHughes教授の来室の際は学外の人にも参加を呼びかけ講演会(3月10日)を開催し、座れない人が出るほど盛況でした。
残念なこととしては、5月13日に研究室の計算機がハッキング(イスラエルからか?)され、2週間以上外部からネットワークを切り離されてしまい、OSの再インストール後復旧という大変な試練を受けました。その時の対策のおかげで、学科内のかなりの研究室がアタックされた際(8月末)には逃れることができました。しかし、この後学科のWEBサーバを閉鎖せざるを得なくない、学部生はホームページ等を作成できなくなったのが残念です。
7.学外活動・委員
各種委員に関しては、IEEEのTVCG(Transactions on Visualization and Computer Graphics)の編集委員が任期終了(4年)しましたが、台湾の英文誌Journal of Information Science and Engineeringの編集委員に新たに就任(11 年4月)しました。4万人も参加したSIGGRAPH99の論文委員を勤め(3度目)、アジアからでは始めてのセッションチェアーも経験させてもらいました。他に、TOKYO ACM-SIGGRAPHの副委員長、画像電子学会ビジュアルコンピューティング副委員長を勤めております。
学外での講義に関しては、平成10年度の後期は前職場の大学院の講義(非常勤)を、また平成11年度は 大阪大学の客員教授を勤め、広島修道大学、 御茶の水女子大学、豊橋技術大学の非常勤(集中講義)を行ないました。
8.
おわりに僅か1年半ではありますが、新設研究科のための補助金およびいくつかのプロジェクト、企業からの支援のおかげもあり、さらには計算機が比較的安くなったことも加わり、学生数に対し十分(1人2台以上)な計算機環境を整備することができました。また、研究成果も一応の結果が得られました。講義に関して、以前の職場では7科目も担当しておりましたが、今では3科目(他に1部分担する科目2科目)に減りましたが、その分雑用が増えて、研究時間が減少したのが残念である。
東京大学には、10年間のみ世話になるつもりで着任しましたが、最近、定年延長問題、さらに独立行政法人化も騒がれており、今後何年東京大学に籍があるか予測できない状況でおります。また、このごろ「IT革命」が話題になっております。こうした流れに対応できるCGの研究をめざして進めて行きたいと思っております。 最後に、三栄技研、NK-EXA、日立製作所、三菱電機の支援に感謝しております。
参考URL
(
CG関係リンク集、CG教材、業績など)西田
HP: /~nis/リンク集:
/~nis/CG_Link.htm業績:
/~nis/junk/resume.htmlJava
例: /~nis/javaexampl/javaExmpl.shtmlCG
教材: /~nis/CG/cgtxt/index2.htm(学内関係)
情報科学科
: http://www.is.s.u-tokyo.ac.jp/複雑理工学専攻
: http://www.k.u-tokyo.ac.jp/complex/index.htmILM
: http://www.iml.u-tokyo.ac.jp/index-j.html